にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

お酒の席の日本語 その二

こんにちは。
東京は昨晩木枯らし1号が吹いたとのこと、今日は秋晴れで過ごしやすいですが、朝晩は冷えるので体調にお気を付けください。


さて、寒くなって熱燗の美味しい時期が近づいてきました。


今回もお酒に関する日本語です。
昔から大盃のことを「武蔵野」と呼ぶそうですが、これはなぜだか分かりますか?


江戸時代の滑稽本『滑稽和合人』は次のように始まります。


大盃(おほさかづき)を武蔵野(むさしの)と號(なづ)けしも、野見盡(のみつく)されぬといふ謎(なぞ)にして、…


おわかりですね?


上方落語桂米朝の噺では、もっとわかりやすく説明してくれています。


男イ「ちょっと、わい、顔、ええ色してるやろ?」
男ロ「おお、ほんに、ぽーっと出てるやないかい。どないしたんや」
男イ「酒飲んだんや」
男ロ「へーお前は飲めんと思てたのに、飲めるようになったんかい、それは結構や。どれぐらい飲んだんや」
男イ「こんーな大きなやつ二枚も飲んだんや」
男ロ「…酒の粕食うたな?」
男イ「わかるか?」
男ロ「わからいで(わからないということがあるか)お前。こんな大きなやつ二枚てなこと言うたら誰でもわかるがな。これぐらいの武蔵野でぐーっと二杯あけたと言うてみい」
男イ「武蔵野て何や?」
男ロ「おおさかずき、大杯のことを武蔵野ちゅうねやな。あの武蔵野という、江戸の方のあの広い野原。あら、一目では見尽くせん、『の、みつくせぬ』というので、大盃のことを武蔵野ちゅう、昔から言うねん、覚えとけ」


言ってしまえばダジャレで、説明が下手だと野暮になりますが、上手に語ったり、何とは無しにこういう言葉が使えると、粋なのではないでしょうか。

それではまた。


【参考URL】
こちらのページを参考にさせていただきました。
「巨大な杯の異名〜話芸のことば探訪〜: WEBサライ 〜 パソコンで読める”もうひとつの『サライ』”」
http://www.webserai.jp/2012/01/post-c6a0.html

【資料】
・『滑稽和合人』の本文は、瀧亭鯉丈作 塚本哲三編『有朋堂文庫 八笑人』所収「滑稽和合人 初編上巻」1921年、有朋堂書店(活字本)より。

桂米朝の落語は、「酒の粕」の音源をもとにしました。