にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

コース室所蔵・ちょっと気になる本列伝1

こんにちは。小倉です。
先日5000円のコピーカードを紛失した衝撃からいまだ立ち直れずにいます。450度くらい残ってたのに……


さて、今日から始まりました「コース室所蔵・ちょっと気になる本列伝」。このコーナーでは、コース室所蔵の書籍を整理していくなかで私小倉がちょっと気になった本を紹介していきます。
第1回は、中村古峡『神経衰弱はどうすれば全治するか』(主婦之友社 1930年1月)です。

まず最初に、この本がなぜ日本語日本文学コース室にあるのかが気になるところ。
それは、日文に神経が衰弱している人が多いから。ではなく、中村古峡は大正期の文学に大きな影響を与えた人だからです。
特に、編集主幹として関わった「変態心理」(大正6年10月〜大正15年10月)は、日本における「変態」という語の浸透において決定的な役割を果たした雑誌です。(ここでいう「変態」は「常態」の対義語で異常心理の意。)
それでは、『神経衰弱はどうすれば全治するか』の内容を少しだけ見ていきましょう。


      読書恐怖症の一例
19歳の青年。某中学5年在学。神経質。
       (中略)
彼はどの書物を読む時でも、屹度、その奥付の版数を調べて見る。そして、その版数の古い時には、何だか新刊とは内容が大変相違してゐるやうに思はれて、どうしても、その書物を読む気にならない。『そんなことがある筈はない』と、心に強く打消しては見るが、それでもなほ、自分の持つてゐる書物だけが、間違つてゐるやうに思はれてならぬ。杞憂観念は次第に煩悶となり、興奮となつて、『こんな間違つた書物を読んだつて、何になるものか。』と、破り棄てたことも幾度あるか知れない。時には煩悶のために、全身に流汗を覚えたこともある。


これを読んで、この人はテクスト異同に敏感という点でけっこう研究者に向いているのではないか、と思いました。この青年のその後の動向も気になります。
中村古峡については、コース室所蔵の『編年体 大正文学全集第2巻』で「殻」という作品を読むこともできます。
今後とも、ぜひコース室の本をご活用いただければ幸いです。
それではまた。