にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

「令女界」からセンターへ

こんにちは。小倉です。
先日、センター試験が行なわれたということで、受験生のみなさまお疲れさまでした。
今年の国語の出典は次のようになっております。


評論:齋藤希史『漢文脈と近代日本』
小説:岡本かの子「快走」
古文:『源氏物語(夕霧の巻)』
漢文:陸樹声『陸文定公集』


この内、岡本かの子の「快走」という小説の初出は「令女界」という雑誌の1938年12月号です。
「令女界」は1922年4月に宝文館から創刊されました。「美しい雑誌」を標語に掲げ、蕗谷虹児竹久夢二などの図像も多く、用紙や印刷技術にも工夫をこらした雑誌だったようです。
その一方、北原白秋与謝野晶子田山花袋(「父親」)、室生犀星(「卓上小園」)などが寄稿したりもしています。
「快走」が掲載された1938年には時節柄、「消費制限案」により雑誌のページ数が減らされたり、青少年の雑誌では「彼氏」などの表現を禁止するよう内務省警保局図書課が警告するなど、統制が進んでおりました。作中にも、「国策の線に添ってというのだね」「だから、着物の縫い直しや新調にこの頃は一日中大変よ」といった会話がみられます。
また、登場人物の「道子」は「今春女学校を卒業」したという設定になっていました。そもそも、「令女界」という雑誌自体が都市部の女学生を主要な読者として想定していたようです。実際のところは、男性をも含む幅ひろい読者層がいたらしいですが、読者像の一典型として「都市の女学生」のイメージが機能していました。
つまり、今年のセンターには、もともと「女学生」やその周辺の人々が読者として設定されている雑誌に載った小説が出題されたということになります。昨年に比べ文章の量は増えたようですが、時代背景についても注で補ってくれていましたし、受験生は小説の文章が読みやすいと感じたのではないかなと個人的には思いました。
それではまた来週。

参考文献
水谷真紀編『コレクション・モダン都市文化第46巻 少女』(ゆまに書房 2009年9月)