にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

ジン、チン、きん


こんにちは、波留です。


今日は時事ネタ。
先日、北京でのAPECが閉幕しましたが、それを伝える各新聞社の記事で、気になる点がありました。
それは中国の国家主席習近平の読み方。


みなさん、この人名、頭の中で何と読みましたか?


従来、中国人の名前については、漢字を日本語読みすることが一般的でした。
しかし、最近は学校の歴史の教科書などで、世界の人名・地名を現地語に近い発音で表記する流れがあります。


報道にも、その流れがあるようで、11月12日の「読売新聞」朝刊1面では、「習近平」に「シージンピン」と振り仮名をふっていました。
習近平」の中国語読みをローマ字表記(ピンイン)で表すと、「Xi Jinping」です。
これをカタカナで表そうとしたのが、読売新聞の振り仮名だったわけです。


ところが。
同日「朝日新聞」朝刊1面では、「習近平」に「シーチンピン」と振り仮名をふっていました。
同じく中国語読みに近づけようとしたようですが、読売新聞の「シージンピン」と微妙に違っています。
これはなぜなのでしょうか。


実は、中国語の「ji」は、単純に日本語の「ジ」と同じ発音とはいえないのです。
中国語の発音のなかには、「その音を発したときに、息が大きく出るか出ないか」で発音し分ける音があります。
これは、日本語にはない発音の区別なので、みなさんにはイメージしづらいかもしれません。(私も学部で少し習っただけですが)
とにかく、中国語の「ji」は、「息を大きく出さない音」なのです。
そして、逆にいえば、「息が大きく出るか出ないか以外はあまり重要なポイントではない」のです。
そういうわけで、ネイティブが「ji」と発音するのを聞くと、「ジ」のような「チ」のような微妙な発音に聞こえるのですが、中国語としては、てんてんがついているかどうかではなく、あくまで息が出るか出ないかが重要なのです。


少し説明がややこしくなりましたが、中国語の「ji」は、
『日本語の「ジ」にも「チ」にも聞こえる、発音したときに息が大きく吐き出されない音』
ということになります。


そのため、「シージンピン」と「シーチンピン」のどちらが正しいともいいがたいのです。


ここに、カタカナの限界がみられます。


完璧に現地語読みと同じ発音を表すことはできなくても、近い発音を表すよう努力するのか。
それとも、どうせ不正確な表記になってしまうなら、日本語読みで「しゅうきんぺい」としたほうがいいのか。


考えてみると、漢字圏以外の人名・地名のカタカナ表記も、危うさを抱えているのですが、漢字は日本語読みが出来て選択肢が増えるだけに、余計に悩ましくなりますね。


ところで、読売新聞、朝日新聞の例を挙げましたが、毎日新聞はまた違う方針のようです。
それも書こうと思いましたが、長くなったので、本日はこのあたりで。
近日、「つづき」を書き込みます。よければお読みください。


では、風邪が流行っているようなので、みなさんお気をつけて。