にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

ジン、チン、きん つづき

こんにちは。波留です。
本日の東京は最近で一番の冷え込みと言っていい天候になりましたね。


【国文学会秋季大会と日文コース室閉室情報】
さて、はじめにお知らせです。


何度もお知らせしていますが、国文学会秋季大会が明日(5日金曜日)、明後日(6日土曜日)に開かれます。
詳細はこちら→ https://drive.google.com/file/d/0B5rzkzvZSR5MdXJMV3B5eWtfams/view
古典文学、近現代文学、日本語学についての研究発表、講演が行なわれます。
日文コース院生はもちろん、学部生や、他コース・他学部・他研究科の方もお聞き頂けますので、ぜひお越しください。
1日目は33号館第一会議室、2日目は36号館681教室と、会場が日ごとに違いますのでご注意ください。


また、明日は平日ですが、国文学会のため、日文コース室は終日閉室いたします。ご了承ください。


【外国人名の表記についてのブログ】
さてさて、先日、中国の国家主席習近平の読み方の表記について、ブログに書きました。
「ジン、チン、きん」
そのときは読売新聞(「シージンピン」)と朝日新聞(「シーチンピン」)の例を紹介したのですが、本日は毎日新聞の表記についてご紹介したいと思います。


前のブログで取り上げたのは読売新聞と朝日新聞の11月12日朝刊1面でした。
同じ日の毎日新聞の朝刊1面には、『APEC閉幕』という見出しはなく、閉幕後の安倍首相の会見についての記事内に、習近平の文字が。


振り仮名は、というと…
ありませんでした。


毎日新聞は、外国人名には振り仮名をつけない方針なのでしょうか。
そこで紙面をめくり、2面に目をやると、韓国の大統領朴槿恵の名前が見えました。
よく見るとそこにはカタカナ「パククネ」と振り仮名が。
韓国の人名には振り仮名をつけるという方針?


一方で、同じ2面に中国の映画監督張芸謀に関する記事があり、そこでは振り仮名でなくカッコ内にカタカナ表記で、「張芸謀チャン・イーモウ」としてあったのです。
同じ中国人名ですが、「習近平」には振り仮名がなく、「張芸謀」には読み方をつけています。
また、「朴槿恵」のときと違い、カッコを使っており、姓と名の間に中黒(「・」)を入れています。


これだけではちょっと方針がわからないので、別の日の紙面を見てみることにしました。


毎日新聞の11月15日朝刊2面に、『正恩氏最側近 ロシア訪問へ』という記事が。
この記事の中では北朝鮮の総書記金正恩にはカタカナの振り仮名で「キムジョンウン」と読み方が記してありました。


そして同じ2面には『中国、首脳会談前向き 日中韓 日本に誠意求める』という見出しの記事がありました。
中国と韓国の人名が同じ記事の中で見られるんじゃないか、と思い、目を通すと、朴槿恵には12日と同じく「パククネ」の振り仮名。
これは一貫しています。


一方、中国人名を探すと、「中国外務省の洪磊副報道局長は…」とあり、「洪磊」にはひらがな「こうらい」と振り仮名がしてあったのです。
「洪磊」の中国語読みをピンインで表すと、「Hong Lei」なので、「こうらい」は日本での漢字の読みです。


ここまでの例をもとに、推測で毎日新聞の方針をまとめてみると、もしかしたらこういうことかもしれません。
1、韓国・朝鮮系の名前には、カタカナの振り仮名で現地語読みに近い読み方を示す。
2、中国人名には、読み方を基本的に示さない。
3、ただし、一般にあまり浸透していない人名には、ひらがなの振り仮名で日本語読みの読み方を示す。
4、中国人名でも、芸能関係などで、現地語読みが一般に周知されている場合は、その読み方を示す。 (張芸謀監督といえば、先日亡くなった高倉健さんを主演に迎えて、映画『単騎、千里を走る。』を撮ったこともあり、日本でも知名度のある人物です。「ちょうげいぼう」より「チャンイーモウ」と呼ばれることが多いように思われ、そういった日本国内での状況をふまえた表記かもしれません。) その際は、カッコを使い、姓と名の間に「・」を入れる。


これらは、毎日新聞に問い合わせたり、方針が書かれた資料を参考に見たわけではないので、単なる推測にすぎませんが、もし「習近平」に振り仮名が振られるとしたら、日本語読みの「しゅうきんぺい」が使われることになるかもしれません。


このように、読売新聞は「ジン」朝日新聞「チン」毎日新聞は振り仮名なし、想定だと「きん」、となり、三者三様の状況となりました。


おまけですが、非漢字圏の国では、中国人名はどう読まれているのでしょうか?
たとえば、イギリスBBChttp://www.bbc.com/)では、「習近平」を「Xi Jinping」と表記しています。
これは、ピンイン表記の通り。では、これで中国語読みを正確に表しているといえるのでしょうか。
実は、ピンイン表記では、アルファベットとともに、「四声」と呼ばれる音調を表す記号がつくのが本来です。
そのため、単にアルファベットで表しただけでは、中国語読みを文字で表せたとはいいきれません。
 

また、当然、発音する際にも、その「四声」が重要になりますし、先日のブログで中国語の「ji」についてお話ししたとおり、子音や母音の発音の仕方にも、その言語ごとの特徴があります。
BBCのニュース動画の音声を聞くと、「四声」は意識されていないようですし、「Xi」は「シー」というより「ジー」に近く発音されています。


漢字圏同士では、そこならではの問題があり、アルファベット(ラテン文字、ローマ字)を介して読み方が変わってきてしまう場合もあります。慣習や両国間の関係にもよるところがあります。
人の名前はアイデンティティに関わるもので、正確に呼びたいところですが、外国人名はなかなか発音が難しく、報道では国内の人々にとっての理解しやすさも大事にされてしかるべきでしょう。難しく、また、面白い問題です。



【新着資料など】
最後に、本日コース室に届いた資料をご紹介。


・古書目録『和の史 思文閣古書資料目録 第240号』
 ―思文閣出版古書部よりご寄贈いただきました。

・企画展ポスター『近代外科医学の最高峰に立った医学博士 佐藤三吉』
 ―岐阜県大垣市奥の細道むすびの地記念館」よりご寄贈いただきました。


(日文コース室に届く資料すべてを必ずブログでご紹介しているわけではありません。ご了承ください。)



それでは、寒いのでみなさまお体にお気をつけて。