にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

サッカーの日本語

こんにちは!波留です。
梅雨の中休みのような晴れ間が見えていますが、昨日のような急変もありえるので注意が必要ですね。


さて、サッカーのワールドカップ、日本は残念ながら敗退してしまいましたが、決勝トーナメントが始まり、熱戦が繰り広げられています。
今日はサッカーに関する日本語について少しだけ。


「決定力不足」がずっと課題と言われている日本代表ですが、中継を観ていると「外れたー!決定的なチャンスでした!」などと実況が言っている場面が何回もありました。
この「決定的」、個人的に少し違和感があります。
辞書をみると、「物事がほとんど決まってしまって、動かしがたいさま。」(デジタル大辞泉)とあります。
たとえば、「グループリーグ敗退は決定的となってしまった。」などの使い方が本来と思われます。
サッカーのゴールについて言えば、本当にもう少しでゴールラインを越えそうだったときなら、「決定的」と言えそうです。
しかし、ゴールできる可能性が大きく見えたものの、結果的にはあまりゴールに迫れなかったときなどに「決定的」を使うのは、少し意味を広げている印象です。
また、文の作り方、一緒に使う言葉の問題もありそうです。「得点が決定的な場面」などなら、許容範囲な気もします。「決定的なチャンスでした!」、さらに、単に「決定的でした!」とまでなると違和感が増します。


「運動量」という言葉の使い方も特徴的です。
「サッカーは運動量の多いスポーツだ。」という言い方はわかります。
しかし、「彼は運動量の豊富な選手だ。」と、人の能力について使うのは、新しい用法のように思います。


ただ、「決定的」にしても「運動量」にしても、本来の使い方の延長上にあり、聞いて意味がなんとなくわかるのも確かです。
闇雲に否定するのではなく、どうしてそのような使い方がされるようになったのかをもう少し考えてみる必要がありそうです。


さて、昨日のオランダ対メキシコの試合では、試合途中で給水タイムが設けられました。猛暑のなかでプレーする選手への配慮のようです。良いプレーを安全に披露してもらうためにも良い試みですね。
気候・プレッシャー・試合展開によって、「タフな試合」というコメントが聞かれることがあります。
この、「タフな試合/日程etc」「試合/日程etcがタフだった」という言い方は、サッカー特有ではありませんが、最近よく耳にする気がします。
英語の辞書(『新英和中辞典』研究社、インターネット「weblio」より)で「tough」を引くと、いくつか意味が載っていますが、1番目には「かたい」があり、3番目に「〈人・動物など〉頑丈な,タフな」とあります。
日本語の辞書では、「頑丈なさま。強い体力と不屈な精神力を備えているさま。「―なからだ」」(デジタル大辞泉)とあり、英語の3番目の意味に近いと思われます。「タフガイ」など、従来の日本語ではこの意味が主で、今でも使われます。
さらに英和辞典をみると4番目に「骨の折れる,困難な」とあります。「タフな試合」はこの意味の例と思われます。
英語の「tough」がもともと持っていたいくつかの意味のうち、日本語では1つを主に使っていたのが、近年、別の意味も取り入れ始めたということでしょうか。
ちなみに、アルゼンチン代表のサベジャ監督がイラン戦について「タフな試合だった。」とコメントしたという日本語の記事(「Goal.com」日本語版、6月22日)がありましたが、英紙「Western Daily Press」(web版、6月23日)の記事をみると、“It was a tough game,”とありました。この「タフ」はまさに英語の4番目の意味での使い方そのままと言えます。


長々と書きましたが、観戦中は細かいことを考えずに試合を楽しみたいですね!
それでは!


【参考URL】
「Goal.com」
http://www.goal.com/jp/news/5256/2014%E5%B9%B4w%E6%9D%AF/2014/06/22/4902975/%E3%82%B5%E3%83%99%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BF%E3%83%95%E3%81%AA%E8%A9%A6%E5%90%88%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F

「Western Daily Press」
http://www.westerndailypress.co.uk/World-Cup-Argentina-1-Iran-0-Alejandro-Sabella/story-21277999-detail/story.html