にちぶんにっき

早稲田大学日本語日本文学コース室のブログです。

漫画に見る古典

皆様こんにちは、二年目の千鳥です。
ハルさんが加わり一層にぎやかになったコース室を本年度もよろしくお願い致します。


以前「漫画で読む日本文学」という記事を書いたのですが、
最近ちらほらと面白いものを発見したのでパート2をやりたいと思います
ダイレクトに文学作品の翻案モノに限る、という訳では無く、
古典文学に関連しそうな、又は参考になりそうだなと思ったもののうち、
現在連載中で気軽に読める作品の中からご紹介。


・『とりかえ・ばや』 さいとうちほ(小学館/既刊4巻)
平安後期の作り物語「とりかえばや」の漫画化です。
翻案モノではありません。とりかえばやがまんま漫画になったもの。
作品上どうしても必要な変更(登場人物に独自の名前をつけるなど)以外はかなり忠実。
むしろ、名前がつくことでわかりにくい人物関係がすっきり整理されて読みやすい。
原作の持つ様々な要素、
例えば男女の双子・性別逆転・女装/男装・同性愛などがはっきり見えてきます。
作者はなんと「少女革命ウテナ」原作・原案のさいとうちほ先生!すごい!
(年齢がばれそう・・・というか学部一年の方は最早お分かりにならない可能性が・・・)
個人的には『あさきゆめみし』並に人気が出てもおかしくないと思います。
というか出て欲しいです。とりかえばやは萌え要素オンパレード!


・『千歳ヲチコチ』 D・キッサン(一迅社/既刊5巻)
平安貴族のギャグテイスト・ほのぼのラブコメディ。
いわゆる「国語便覧」が好きだった人間にはツボな豆知識がいっぱいです。
例えば、男主人公の母親が父親(夫)に高級なお香をプレゼントされ喜ぶシーン(1巻より)。
「(お香の説明として)八条宮本康親王のレシピで調合した梅花だよ!」や、
「このお香(梅花)は完成までに一年ほどかかりますし・・・」という台詞があります。
本康親王は実在の人物で仁明天皇第七皇子、平安前期の香の調合の名人(つまりブランド)。
梅花は平安時代によく用いられた六種の薫物(むくさのたきもの)の一種で、
平安末のお香レシピ集『薫集類抄』によると物凄く面倒な過程を経て調合されるお香。
(粉にした原料を混ぜて一晩酒に浸してから乾かす・馬糞の下に暫く埋めておく等々)
なので調合に一年かかっても不思議ではありません。
さらに源氏物語の梅枝巻、薫物合せの場面では、
紫の上の調合法について「八条の式部卿の御方を伝へて」とあります。
この「八条の式部卿」が本康親王のことなのです。
深読みをすれば、光源氏の最も大切な女君だった紫の上を想起させるお香が、
愛人もいる中で正妻である主人公の母親に贈られるというのは何か意味がありそう。
たった1〜2コマ、2行の台詞にこれだけの情報量とは、凄まじい&素晴らしい!
他にも「具注暦」に「カレンダー」とルビが振ってあるなど、
平安ファンには身もだえしたくなるような小ネタが怒濤のように出て来ます。
特に塾講師等で当時の文化風俗を生徒さんに小難しくならないよう伝えたい方、
ぜひご一読&ご活用下さい。かなりお勧めです。
キッサン先生は短編でも蹴鞠・白拍子三条西実隆についてお描きになっています。
(蹴鞠モノは「鞠めづるヒトビト」短編集『矢継ぎ早のリリー』より、
実隆は「ENGIメーカー」短編集『ゆり子には内緒』より/共に一迅社)


・『花よりも花の如く』 成田美名子(白泉社/既刊12巻)
現代の能楽師さんの生活を描いた作品。
「葵の上」「安宅」「道成寺」「石橋」をはじめたくさんの演目が登場します。
現代における能楽という存在について、能の面について、狂言方との関係など、
ただ観に行くだけでは分からないことがら・裏側まで描かれていてとても面白いです。
特に「道成寺」「弱法師」「春日龍神」は繰り返しみっちり描かれています。
伝承との違いや受容の考察などもあり、古典の現代受容を考える上でも大変参考になります。
能楽と言えばシテ・ツレ・子方・トモ・ワキ・地謡・後見・囃子など、
覚えられない!と思ってしまう用語たちも話の流れでするっと入ってくるのが不思議。
毎回コミックスの巻末ページに「附祝言」が載せられているのも凝っていて素敵。
ちなみに私は「葵の上」を見たことがきっかけで源氏物語にハマった人間なので、
今後、源氏能がもっともっと登場してくれることを期待しています。
元々成田先生ファンなので、前作『NATURAL』の登場人物が出てくるのもたまらない。笑


以上、千鳥が選ぶ古典文学(が関連しそうな)漫画ベストスリー2014・春でした。
この3作品がお勧めというだけで優劣はありません。全てご一読頂きたい。
(そしてコース室に来て私と漫画トークをしてください!)
他にもお勧めがあるよ!と言う方はぜひ教えて欲しいです。
昨日衝動買いした『応天の門』が気になる・・・二巻が楽しみ・・・。


まとめると『うた恋い。』『あさきゆめみし』や
文豪ストレイドッグス』以外にも文学マンガは色々あるよ、と言うお話でした。
ちなみに『あさきゆめみし』の作者、大和和紀先生は、
枕草子万葉集額田王をベースにした漫画も描かれています。
(枕草子が『春はあけぼの殺人事件』、額田王が『天の果て地の限り』/共に講談社文庫)
古典に興味があるけれど原文読むのは面倒くさい、
でも現代語訳も分かりづらいから読みたくない!と言う方、
ぜひぜひ漫画で古典作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。


尚、上に名前を挙げたものは全て千鳥が所持していますので、お声がけ頂ければお貸しします(小声)。